2011年5月21日土曜日

記紀探訪:編さん1300年を前に/3 美容業界も信仰、鏡作神社 /奈?

 「鏡は特別な存在。ないと仕事になりませんから」。昨年11月下旬、田原本町八尾の鏡作坐天照御魂(かがみつくりにますあまてるみたま)神社(鏡作神社)で、美容師、小林聡さん(35)は静かに手を合わせた。奈良市南市町でヘアサロン「k.kobayashi」を営む。店の今後とともに、家族、亡き母啓子さんへの思いを込めた。
 女手一つで育ててくれた啓子さんは、明るい元気な人だった。高校卒業後、定職に就かずアルバイトを続ける息子の将来を心配して小言も言ったが、美容師になった時は誰より喜んだ。「一人前になるまで戻って来なくていいよ」。東京に勤務することになった小林さんの背中を押してくれた。
 05年に同僚の理華さん(28)と結婚し、長男楓君(5)が誕生した。啓子さんにがんが見つかったのは07年春。「長くはない」と宣告された。小林さんは「限られた時間を家族全員で暮らしたい」と奈良に戻ることを決意。住居の手配を済ませたが、仕事の引き継ぎなどに手間取る間に啓子さんの病状は急激に悪化した。08年3月、病院から勤務先に電話があり、危篤を知らされた。新幹線に飛び乗ったが、間に合わなかった。
 母の死から5カ月後の8月、理華さんと2人で切り盛りする椅子二つ、シャンプー台一つの小さな店をオープンさせた。店名は、母親と息子共通のイニシャルを付けた。うれしい半面、「いつか自分の店を持ってほしいな」と言っていた母がいないことが悔しくてならなかった。直後に生まれた次男には、啓子さんの「けい」をもらい「慧(けい)」と名付けた。
 鏡作神社は、古事記にある天照大神(あまてらすおおみかみ)の「岩戸隠れ」の際に、八咫鏡(やたのかがみ)を作った「石凝姥命(いしこりどめのみこと)」などを祭神とする。付近は鏡作の技術者集団がいたとされ、製鏡業界だけでなく美容師の信仰も集める。
 小林さんは昨年11月、知人に聞いてその存在を知った。日ごろ世話になっている鏡への感謝の思いをささげようとすぐに訪れた。静かで厳粛な雰囲気に心が洗われるような不思議な力を感じ、家族と再訪した。
 店は大きくならなくてもいいと思っている。神社の境内ではしゃぐ子供たちを見て「これからも家族が健康で幸せに暮らせますように」と心から願った。どこかで母が見守ってくれているような気がした。【花澤茂人】
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 ◆メモ
 田原本町役場の北約500メートル。近鉄田原本駅から徒歩約20分。

1月4日朝刊

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引用元:arad rmt

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